「これから自分が受け持つ仕事のシナリオを描いてみてください」と課題を出すと、おそらく大半の人は、こうなればいいなという最善のケースを思い描くのではないだろうか。
だが最悪のケースを考えられるか考えられないかは、直接仕事の差として表われる。
どれだけ最悪のことを考えられるかということは、成功するためには重要なのだ。
つまり、自分に任された仕事を遂行したいのなら、楽観主義だけでは駄目だということだ。
「もしかすると」「万が一には」という懐疑的な態度も必要である。
また、最善・最悪のケースを考えるだけでなく、さらにその後のことも考える習慣を身につけること。
最善の方向に進んだ場合は、その後はどのように展開していくのか。
一方、最悪に転んだ場合は、そこから立て直すために、どのような対処法をしていくのかということまで考える必要がある。
そこまでの用意ができていれば、どんな事態になっても慌てずにすむはずである。
加えて、忙しいときほどシミュレーションは重要だ。
手帳には、さまざまな約束や予定が書き込まれている。
しかし、たとえ書いであっても、忙しくなると忘れてしまう。
「書き込んであるから大丈夫」では駄目なのだ。
通勤電車で今日一日のシミュレーションをするということは、こういった意味からも非常に重要なのである。
自分が理想とする「書斎」を想像してみてほしい。
そこは、集中力を高められる空間であり、リラックスできる空間でもある。
客観的に自分を見つめ直すことのできる空間でもある。
過去を振り返り、いまを知り、さらに未来について考えることのできる空間。
明らかに職場のデスクとは違う空間である。
それが書斎なのだ。
新しい価値を生み出す人、生産性の高い人というのは、それを生み出すための場所を必ず確保している。
いまから二十年以上前に、著名な学者や研究者、思想家などの書斎を巡る機会を得たことがある。
そのとき実感したのは、みんなそれぞれに特徴的な素晴らしい書斎を持っているということだった。
私も書斎には、こだわり続けてきた。
しかし若いころは、自宅に書斎をと望んでも、なかなかそれは実現できない。
私も、はじめて自宅に書斎と呼べる空間を持てたのは、結婚してマンションを買ったときだ。
それ以来、いろいろなところに住まいを変えているが、家のなかで一番いい部屋を私は自分の書斎として確保してきた。
たとえば、三十四歳のときに買ったマンションは、南に一部屋があった。
同じマンションに入る大半の世帯は、この部屋を寝室としていた。
しかし、私はここを書斎にすると宣言して、書斎にした。
もちろん家族からは不評だった。
次に買ったマンションも、リビングの隣を書斎にした。
さすがに妻もこのように私にいった。
「マンションの住人のなかで、この部屋を書斎にしている人なんかいない」だが、書斎は自分のもっとも大切な空間だということを主張して、もっともいい部屋を書斎にすることだけは、譲らなかった。
ある意味、通勤電車も書斎といえる。
だからつねに書斎を担いで歩いているようなものだ。
そこで電車での移動を「自分の人生が運ばれている」と考えてみたらどうだろう。
書斎と同じように、まさにその時間と空間を大切にすることが大事。
いまこの瞬間が移動していく、というイメージ。
そう考えるとこの瞬間をおろそかにすることはできないはずだ。
通勤電車で重要なのは、必ず座っていかなくてはならないということ。
満員の通勤電車のなかで、ずっと立ち続けていることほど、知的生産活動からほど遠いことはない。
人込みのなかでは、考え事さえもろくにできない。
あるときは、私がボックス席の通路側に座っていると、途中駅でいつもよりもたくさんの人が乗り合わせてきた。
すると、通路で立っていた女性が人の波にギューッと押されて、彼女のお尻が私の膝の上。
挨拶するのもおかしいし、彼女も困っているし、結局、降りるまでそのままの状態になったことがある。
日本の通勤事情は深刻である。
しかし、これから一日が始まろうとしているのに、その始まりが満員電車に乗って立ち続けることだとしたら、気分も重くなる。
その気分を引きずったまま、仕事に向かっても、成果は期待できない。
つまり、スタートラインから大きくつまずいたことになる。
朝からテキパキと働きたいなら、やはり通勤電車の時間を最大限の努力を払って活用すべきである。
電車で座っていくことのメリットは体力的・精神的なことにとどまらない。
たとえば、「メモをとれる」ということが挙げられる。
これは、意外と重要なポイントで、通勤電車のなかには、いろいろな人がいて、本や新聞を読んだり、眠っていたり、音楽を聴いていたり、さまざまなことをしている。
また車内には、中吊り広告があり、情報にあふれでいる空間でもある。
そのなかは、どんな本が売れているのか、何が流行しているのか、世の中の動きを大ざっぱにつかむこともできる。
そこから仕事に役立つ情報を得ることもあるだろう。
そのとき、ただ思いつくだけだと、すぐに忘れてしまうが、文字として残しておけば、強烈にインプットされる。
さらに、そこからアイデアを膨らませることができる。
この時間を自由に思うがままに使いこなそう!また、くり返すが、通勤時間があまりに短くては意味がない。
私は、そのために、意図的に会社から遠くの場所に住むようにした。
遠くに住めば住居費も安くなる。
その浮いたお金は自己投資にまわすこともできる。
始発の駅の近くに住めば必ず座ることができる。
もっというならば、各駅停車に乗って通勤時間を長くすれば、その分、自分の時間が増えるのだ。
もっと確実なのは、指定席を利用すること。
そうすれば必ず座ることができる。
これも立派な自己投資である。
もう一度いう。
通勤電車はあなただけの書斎である。
そのなかでは、朝日を浴びながら、過ぎゆく風景を見ながら、思索にふけることも、またゆっくりと読書を楽しむことも、自分の思うがままに、自由に時間を使うことが許されている。
それは、まわりの喧騒などまったく耳に入らない至福のひとときである。
こうした時間を一日の始まりに持つことができるのは、とても有意義なことである。
それは、一日ではたったの一時間かもしれない。
しかし、毎日この時間を持つことができる人とそうでない人の差は、五年後、十年後では、大きな結果として表われるだろう。
一年後、サラリーマンの労働時間は基本的には九時〜五時。
多くのサラリーマンは、この時間を中心に行動しているはずだ。
何かをやるにしても、平日は「まず時間がない」と考えていないだろうか。
なぜ、そうなってしまうのか。
それは九時〜五時以外の時間を付属の時間として考えているからである。
少し視点を変えて見てみてほしい。
たとえば、朝五時に起きるとする。
そうすると、朝の五時かう始業時間の九時までは自分の時間である。
つまり、朝早く起きることでプライベートな時間を四時間も確保できるということだ。
さらに、仕事が終わってからの五時〜九時の時間。
この時間も、同じように考えてみる。
残業や接待がない限り、特別な用事はそうたくさんも入らないはずだ。
強いていえば、同僚・上司と飲みに行くぐらいなのではないだろうか。
つまり平日でも、自分を磨くための時間は充分確保できる。
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